はじめに / Introduction
カニ類は世界中で7,260種(2015年時点)が知られており(Davie et al., 2015), そのうち日本には約1,000種が生息しています(酒井, 1980).
大きさはほとんどの種が数cm程度ですが, 大きなものでは脚を広げると3mにもなるタカアシガニや, 甲幅60cm, 重さ10Kgのオーストラリアオオガニがおり, 小さいものでは, 甲幅2mmのヤワラガニ科の一種が知られています(武田, 1995).
水深4,000mの深海から標高4,000mのヒマラヤ山中まで様々な環境に生息し, 習性や形態も多様です(武田, 1992). 海に生息する種が大半ですが, 一生を淡水域ですごすサワガニ類も世界中に1400種以上います(Davie et al., 2015).
現在, カニ類の起源は中生代ジュラ紀初期のコウナガカムリ類(Superfamily Homolodromioidea Alcock, 1899)から始まり, ジュラ紀中期にかけて2上科といくつかの科に別れ, ジュラ紀後期に他の多くのグループに分かれた, と考えられています(Schweitzer & Feldmann, 2010).
分類学上は短尾下目(Infraorder Brachyura)となっており階層は以下のとおりです(Martin & Davis, 2001 ; Ahyong et al., 2011).
節足動物門 Phylum Arthropoda von Siebold, 1848 昆虫類、甲殻類、クモ類、 ムカデ類など
甲殻亜門 Subphylum Crustacea Brünnich, 1772 エビ類、カニ類、ヤドカリ類、シャコ類、ダンゴムシ類、フジツボ類など、甲殻類全体
鰓脚綱 Class Branchiopoda Latreille, 1817 カブトエビ類、ミジンコ類、ホウネンエビ類、アルテミア類など
ムカデエビ綱 Class Remipedia Yager, 1981 ムカデエビ類(洞窟に生息する極めて特殊な種類)
カシラエビ綱 Class Cephalocarida Sanders, 1955 カシラエビ類(最も原始的な甲殻類とする説がある)
顎脚綱 Class Maxillopoda Dahl, 1956 フクロムシ類、フジツボ類、カメノテ類、エボシガイ類など
貝虫綱 Class Ostracoda Latreille, 1802 ウミホタル類、カイミジンコ類など
軟甲綱 Class Malacostraca Latreille, 1802 エビ類、カニ類、ヤドカリ類、シャコ類、オキアミ類、コノハエビ類、ダンゴムシ類など。一般的に甲殻類らしい体制を持つ。
コノハエビ亜綱 Subclass Phyllocarida Packard, 1879 コノハエビ類
トゲエビ亜綱 Subclass Hoplocarida Calman, 1904 シャコ類
真軟甲亜綱 Subclass Eumalacostraca エビ類、カニ類、ヤドカリ類、オキアミ類、ダンゴムシ類など
厚エビ上目 Superorder Syncarida Packard, 1885 ムカシエビ類
フクロエビ上目 Superorder Peracarida Calman, 1904 アミ類、クーマ類、タナイス類、ダンゴムシ類、フナムシ類、ワレカラ類など
ホンエビ上目 Superorder Eucarida Calman, 1904 オキアミ類、エビ類、カニ類、ヤドカリ類
オキアミ目 Order Euphausiacea Dana, 1852 オキアミ類
アンフィオニデス目 Order Amphionidacea Williamson, 1973
十脚目 Order Decapoda Latreille, 1802 エビ類、カニ類、ヤドカリ類
根鰓亜目 Suborder Dendrobranchiata Bate, 1888 クルマエビ類
エビ亜目 Suborder Pleocyemata Burkenroad, 1963 クルマエビ類以外のエビ類、カニ類、ヤドカリ類
オトヒメエビ下目 Infraorder Stenopodidea Claus, 1872 オトヒメエビ類
プロカリス下目 Infraorder Procaridoida Chace & Manning, 1972
コエビ下目 Infraorder Caridea Dana, 1852 サンゴエビ類、ヌマエビ類、サラサエビ類、テナガエビ類など
センジュエビ下目 Infraorder Polychelida Scholtz & Richter, 1995 センジュエビ類
イセエビ下目 Infraorder Achelata Scholtz & Richter, 1995 イセエビ類、セミエビ類など
Infraorder Glypheidea Winkler, 1882
ザリガニ下目 Infraorder Astacidea Latreille, 1802 ザリガニ類、アカザエビ類
Infraorder Axiidea de Saint Laurent, 1979
Infraorder Gebiidea de Saint Laurent, 1979 アナジャコ類
異尾下目 Infraorder Anomura MacLeay, 1838 ヤドカリ類、タラバガニ類
短尾下目 Infraorder Brachyura Latreille, 1802 カニ類
カニ類が属する十脚目(Order Decapoda)は甲殻類全体から見ると限られた一分類群ですが, 最も甲殻類らしい分類群でカニ類の他にはエビ類, ヤドカリ類を含みます.
エビ類, ヤドカリ類, カニ類は基本的に体の構造は同じで, 腹部(尾部)の形態で分けて考えることができます. エビ類の腹部は長く伸びて筋肉も発達していますが. ヤドカリ類は腹部が退化してきて左右非対称に歪んできています. カニ類は退化がさらに進み完全に胸側に折り畳まれるようになっています. 腹部の退化と並行して歩脚が発達し, 「歩く」という行為はカニ類が最も得意です.
ちなみに, スーパー等でおなじみのタラバガニはカニ類ではなくヤドカリ類で, 分類上は短尾下目ではなく異尾下目(Infraorder Anomura)に属します. 短尾下目に属するカニ類をタラバガニ類と区別する意味で真正カニ類と呼ぶこともあります.
本サイトは基本的にカニ図鑑ですが, カニ類の魅力を多くの人に紹介するために, 実際に生息している場所で撮影した生態写真を用いることを原則としています. また, 対象を真正カニ類に限定しました.
分類体系の方針は以下のとおりです.
- 属及び亜属までの分類体系は Poore & Ahyong, 2023 に従った. ただし, Potamidae Ortmann, 1896 については De Grave et al., 2009 に, Dorippidae MacLeay, 1838 については Guinot, 2023 による.
- 種学名は原則 Ng et al., 2008 に従っているが, その後の変更も極力取り入れている. 変更があった場合は個別の種のページ, またはこのページに注釈を記載した.
和名は酒井, 1976, 三宅, 1983, 永井 & 野村, 1988および武田 et al., 2019に従っているが, それ以外の場合は個別の種のページに注釈を記載した.